正義のミカタ ― 2011-10-13
本田孝好 集英社 714円(別)
月光仮面を思い出させる表紙の単行本を見かけたときから、
とても気になっていて“ 読みたい”リストの上位に入っていた。
けれど、なかなか読む機会に恵まれずに、
ずるずる先延ばしにしている間に文庫化され、
さらに気になる本が次々出てきて、
ほとんど忘れ去りかけていた一冊。
著者の本田氏の作家デビューは1994年。
1971年生まれだから23歳でデビューしたということだ。
が、その後はぱっとせず、注目を浴びることもなかったようだ。
現在40歳ぐらいなのに、著作数はほんとに少ない。
文学賞も「小説推理新人賞」を獲ったことがあるほかは、
『真夜中の五分前』が2004年度に直木賞候補となったくらいのようだ。
映像化やコミカライズもほとんどない。
唯一「イエスタデイズ」が映画になっているとのことだ。
金城一紀と大学では同級生であり、
互いに影響を受けあっていたのかと想像される。
僕の本田作品体験は『MOMENT』だけだが、
死ぬ前に願いを叶える青年にまつわる話だけれど、
そこ、ここにちりばめられている渇きや熱情に圧倒された。
絶賛したりはしないものの、印象深い作品だった。
いじめられっ子だった蓮見亮太が入学した大学には、
いじめの中心にいた畠田も入っていた。
さっそく畠田に絡まれて金をせびられているとき、
猿のような容貌の男=トモイチに救われた。
そのトモイチは「正義のミカタ研究部」に属する、
ボクシングの高校チャンプであった。
亮太には、亮太自身の知らない秘められた能力があった。
ボクシング経験の豊富なトモイチはその能力に気づき、
彼の属するサークルに勧誘することにした。
トモイチに連れられて他の部員に引き合わされた亮太の、
長年のいじめ体験で形成された能力は
並はずれた動体視力による防御テクニックだった。
その才を認められた亮太は「正義のミカタ研究部」に入部する。
亮太は、過去のいじめられっこ体験を駆使して、
学校内での問題解決を通して自己発見を行うこととなる。
初めて自分に価値を見いだせる居場所を見つけるのだ。
そんな亮太に、甘い誘いが忍び寄る。
学内で広まっているねずみ講の潜入調査で知り合った男から、
組織への誘いを受けるのだ。
亮太の中で“正義”と“欲望”とがせめぎ合う。
結局のところは、正義につき従う亮太だが、
「正義のミカタ研究部」のあり方に違和感を感じてしまう。
生粋のいじめられっこの彼は考える。
悪いことをしている人だからという理由だけで、
悪人だと決めつけられるのか。
9つの正義を守れても、一つの間違いがあるのなら、
それは、どこか、おかしいのではないかと。
その違和感から、初めて自分の居場所だと感じた
「正義のミカタ研究部」からの脱退を決意する。
部の掟に従い亮太は他の部員たちと対峙することになる。
やはり元いじめられっ子の部長との対決シーンは見事だ。
正義に捉えられた部長の鉄拳に対して
亮太はいじめられっ子のプライドにかけて、
絶対の非暴力を貫くのだ。
そのあとでさらっと書かれる数々の和解シーンには救いがある。
特に畠田とのシーンは見事だと思う。
不正や暴力を力で押し込めようとしたって、その効果は限定的だし、
いじめにしたって、犯罪にしたって、暴力では解決がつかない。
しょせん“正義”とは相対的なものでしかないし、
どんな不幸な出来事も、始まりの擦れ違いから起きる。
うまく言葉にできない、もどかしいものの正体に迫っていく、
青春小説の一冊だと思う。
本田孝好の描く物語は、どこか甘い。
その甘さが大好きだ。
月光仮面を思い出させる表紙の単行本を見かけたときから、
とても気になっていて“ 読みたい”リストの上位に入っていた。
けれど、なかなか読む機会に恵まれずに、
ずるずる先延ばしにしている間に文庫化され、
さらに気になる本が次々出てきて、
ほとんど忘れ去りかけていた一冊。
著者の本田氏の作家デビューは1994年。
1971年生まれだから23歳でデビューしたということだ。
が、その後はぱっとせず、注目を浴びることもなかったようだ。
現在40歳ぐらいなのに、著作数はほんとに少ない。
文学賞も「小説推理新人賞」を獲ったことがあるほかは、
『真夜中の五分前』が2004年度に直木賞候補となったくらいのようだ。
映像化やコミカライズもほとんどない。
唯一「イエスタデイズ」が映画になっているとのことだ。
金城一紀と大学では同級生であり、
互いに影響を受けあっていたのかと想像される。
僕の本田作品体験は『MOMENT』だけだが、
死ぬ前に願いを叶える青年にまつわる話だけれど、
そこ、ここにちりばめられている渇きや熱情に圧倒された。
絶賛したりはしないものの、印象深い作品だった。
いじめられっ子だった蓮見亮太が入学した大学には、
いじめの中心にいた畠田も入っていた。
さっそく畠田に絡まれて金をせびられているとき、
猿のような容貌の男=トモイチに救われた。
そのトモイチは「正義のミカタ研究部」に属する、
ボクシングの高校チャンプであった。
亮太には、亮太自身の知らない秘められた能力があった。
ボクシング経験の豊富なトモイチはその能力に気づき、
彼の属するサークルに勧誘することにした。
トモイチに連れられて他の部員に引き合わされた亮太の、
長年のいじめ体験で形成された能力は
並はずれた動体視力による防御テクニックだった。
その才を認められた亮太は「正義のミカタ研究部」に入部する。
亮太は、過去のいじめられっこ体験を駆使して、
学校内での問題解決を通して自己発見を行うこととなる。
初めて自分に価値を見いだせる居場所を見つけるのだ。
そんな亮太に、甘い誘いが忍び寄る。
学内で広まっているねずみ講の潜入調査で知り合った男から、
組織への誘いを受けるのだ。
亮太の中で“正義”と“欲望”とがせめぎ合う。
結局のところは、正義につき従う亮太だが、
「正義のミカタ研究部」のあり方に違和感を感じてしまう。
生粋のいじめられっこの彼は考える。
悪いことをしている人だからという理由だけで、
悪人だと決めつけられるのか。
9つの正義を守れても、一つの間違いがあるのなら、
それは、どこか、おかしいのではないかと。
その違和感から、初めて自分の居場所だと感じた
「正義のミカタ研究部」からの脱退を決意する。
部の掟に従い亮太は他の部員たちと対峙することになる。
やはり元いじめられっ子の部長との対決シーンは見事だ。
正義に捉えられた部長の鉄拳に対して
亮太はいじめられっ子のプライドにかけて、
絶対の非暴力を貫くのだ。
そのあとでさらっと書かれる数々の和解シーンには救いがある。
特に畠田とのシーンは見事だと思う。
不正や暴力を力で押し込めようとしたって、その効果は限定的だし、
いじめにしたって、犯罪にしたって、暴力では解決がつかない。
しょせん“正義”とは相対的なものでしかないし、
どんな不幸な出来事も、始まりの擦れ違いから起きる。
うまく言葉にできない、もどかしいものの正体に迫っていく、
青春小説の一冊だと思う。
本田孝好の描く物語は、どこか甘い。
その甘さが大好きだ。
犯罪小説家 ― 2011-10-13
雫井修介 双葉社 714円(別)
雫井 脩介は1968年生まれで、1999年、『栄光一途』で小説家デビューした。
その後彼の作品は年一冊のペースで発表され、
『火の粉』がテレビドラマとなったほか、
『クローズド・ノート』が、漫画化、映画化、『犯人に告ぐ』が映画化されている。
既読の作品としては『火の粉』がある。
一家惨殺事件の容疑者に無罪判決を出した元裁判官の隣家に、
当時の容疑者が引っ越してくる。
男は、あふれる善意で接してくる。
その善意が家庭を侵食していき、やがて崩壊へと向かわせる。
家庭の崩壊は食い止められるのか。
巧みな心理描写が光った怖いサスペンスだった。
大評判をとった『クローズド・ノート』はコミックで読んだ。
まあ、感涙ものの一冊ではあると思うけれど、
コミックからは揺さぶられるほど感銘は受けなかった。
原作を読んだら違うのかも、と思いはしたが、
いまだに手にとってはいない。
いつかはもう一冊と思っていたのである。
それが本作品ということになる。
長い不遇の時代を経験したのち、新人賞を得た小説家・待居涼司。
彼の最新作「凍て鶴」は高評価を得、映画化の話が持ち上がった。
奇才として知られる人気脚本家の小野川充が監督に抜擢される。
小野川は「凍て鶴」の映像化に当たり、
主人公の"美鶴"に肉付きを与えるには、
自殺系サイト「落花の会」主宰の木ノ瀬蓮美が合うと主張する。
映画製作に向けて、小野川はライター今泉に調査を依頼する。
「落花の会」への小野川の異様なまでの執着に戸惑う待居。
一方、調査を重ねるうち今泉は「落花の会」の周りに待居の影を感じる。
その進展具合に待居は不気味さを感じるが、
小野川は待居をいつでも引き込んでくる。
小野川の真意はどこにあるのか。
待居と「落花の会」には接点があるのか。
小野川・町井・今泉の心理描写は緊迫感に満ちている。
作中「凍て鶴」のアイデアだけでも一冊ホンマにかけそう。
ラストの持っていきようも絶妙。
傑作と思います。
雫井 脩介は1968年生まれで、1999年、『栄光一途』で小説家デビューした。
その後彼の作品は年一冊のペースで発表され、
『火の粉』がテレビドラマとなったほか、
『クローズド・ノート』が、漫画化、映画化、『犯人に告ぐ』が映画化されている。
既読の作品としては『火の粉』がある。
一家惨殺事件の容疑者に無罪判決を出した元裁判官の隣家に、
当時の容疑者が引っ越してくる。
男は、あふれる善意で接してくる。
その善意が家庭を侵食していき、やがて崩壊へと向かわせる。
家庭の崩壊は食い止められるのか。
巧みな心理描写が光った怖いサスペンスだった。
大評判をとった『クローズド・ノート』はコミックで読んだ。
まあ、感涙ものの一冊ではあると思うけれど、
コミックからは揺さぶられるほど感銘は受けなかった。
原作を読んだら違うのかも、と思いはしたが、
いまだに手にとってはいない。
いつかはもう一冊と思っていたのである。
それが本作品ということになる。
長い不遇の時代を経験したのち、新人賞を得た小説家・待居涼司。
彼の最新作「凍て鶴」は高評価を得、映画化の話が持ち上がった。
奇才として知られる人気脚本家の小野川充が監督に抜擢される。
小野川は「凍て鶴」の映像化に当たり、
主人公の"美鶴"に肉付きを与えるには、
自殺系サイト「落花の会」主宰の木ノ瀬蓮美が合うと主張する。
映画製作に向けて、小野川はライター今泉に調査を依頼する。
「落花の会」への小野川の異様なまでの執着に戸惑う待居。
一方、調査を重ねるうち今泉は「落花の会」の周りに待居の影を感じる。
その進展具合に待居は不気味さを感じるが、
小野川は待居をいつでも引き込んでくる。
小野川の真意はどこにあるのか。
待居と「落花の会」には接点があるのか。
小野川・町井・今泉の心理描写は緊迫感に満ちている。
作中「凍て鶴」のアイデアだけでも一冊ホンマにかけそう。
ラストの持っていきようも絶妙。
傑作と思います。
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