犬は勘定に入れません2006-07-28

あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎

コニー・ウィリス  早川書房  2800円

あの傑作ユーモア小説『ボートの三人男』を意識して書かれたSFミステリ。
下敷きとなった『ボートの三人男』を知らない人にも、
河下りのばかばかしさは伝わります。

21世紀、タイムトラベルの技術が発展し、
過去に戻って研究ができるようになっていた。
21世紀の女傑レディ・シュラプルは、
第2次大戦で焼失したコヴェントリー大聖堂再建の計画を持ち、
多くの調査員を過去に送り出していた。
オックスフォード大学史学部学生ネッドも、その一人であり、
コヴェントリー大聖堂で「主教の鳥株」と呼ばれる花瓶を調査していた。
21世紀と20世紀を何度も行き来するうち、
ネッドは深刻な時間旅行ボケに陥る。
一方、ヴィクトリア朝時代で「主教の鳥株」を調査していた女学生ヴェリティは、
禁止されている物体の持ち帰りをしてしまう。
溺死しそうな猫を見殺しにできなかったのだ。
歴史の齟齬を防止するため、猫は戻さねばならない。
その役目はネッドに任されることとなる。
意識がはっきりしないまま、重要な使命を背負わされながらも、
深刻な時間旅行ボケを治療するためにも、
ネッドはヴィクトリア朝ののんびりとした時代に旅立つ。

ヴィクトリア朝では、ネッドはいきなり河下りをする羽目になる。
相棒は手練巣という学生と、その愛犬。
なぜかおぼれかけていた教授のぺディック。
優雅そうに見える河下りの合間に、ネッドは「主教の鳥株」を捜し求め、
猫を戻すこともしなければならない。
ところが、ネッドの試みはすべて見当はずれとなり、
ますます自体は混沌としていくのである。
歴史どおりに正しい男女の出会いが全うされるのか。
捜し求める「主教の鳥株」は、いつ消え去ってしまったのか?
時間旅行ボケの判断力が鈍ったままのネッドは、
果たして正しい結論にたどり着けるのか? 

非常によくできたコメディータッチの秀作です。
時間旅行理論なんかもかなりひねってあるし、
会話の機微にも細やかな注意が払われています。
本家『ボートの三人男』を髣髴とさせるエピソードの数々も愉快。