あきらめのよい相談者2006-08-30

剣持鷹士  東京創元社  640円

1994年に「あきらめのよい相談者」で創元推理短編賞を受賞し、
この一冊だけが剣持鷹士名義で発刊されている作家のようだ。
作品集が単行本化されたのは、著者が33歳のころなので、
作中の弁護士が若い居候弁護士という設定なのは、
法学部卒業の著者自身の反映なのだろう。

この作品集には4つの短編が収録されている。
いずれも弁護士の下に来る奇妙な依頼者が持ち込む相談に
剣持鷹士が手を焼いているところ、
その友人で、司法試験に通っていないものの、その洞察力などに一目置く、
女生光輝が込み入った謎を推理し解決に導くという形態を採る。

「あきらめのよい相談者」は、剣持が勤務する弁護士事務所に、
飛び込みで白石誠と名乗る相談者が訪れる。
イソ弁の剣持が応対すると、
彼は玄関照明が暗く走って入ろうとした折、
ガラス戸が見えにくくぶつかって怪我をしたので、
損害賠償を請求したいというのである。
剣持が、内心困った相談者だなと思いながらも、
(困るというのは、こうした相談を持ち込むのは粘着質な人が多く、
えてして損害賠償額より弁護士費用のほうが高くつくケースが多いのだが、
そうしたことを理解しようともせず、訴訟したいというタイプが多いから…)
一通りの説明をしてみると、意外なほどあっさりと事務所を後にする。
数日後、裁判所の控え室で同じビルに入居している弁護士が集まり
暇つぶしに雑談をしていると、白石が各事務所に訪れていたことが判る。
事務所の入っているビルを上から下に、
同じ相談で弁護士事務所を訪れているのである。
どの弁護士も剣持と同じように説明したところ、
白石はあっさりと立ち退いているのである。
一人の弁護士には諦めがよいのに、相談事はあきらめない。
奇妙な相談者と話題になっていたところ、
うち一人がそういう事例でも賠償金が取れると答えたということがわかった。
ところが、白石は依頼をすぐにしようとしないのである。
不思議な相談者に首をひねるばかりの一同であった。
その後、さらに雑談をしているうち、
不倫相手に捨てられ自殺した娘の復習のため、
相手を殺人罪で告訴したいという依頼があったことが話題となる。
弁護士の元への相談は、やりきれないものがあるのだ。
その話題が合った夜、久々に友人の女王と飲みに出た剣持は、
何気に昼間の話題を語る。
すると女王の口から、
白石が相談を引き受けてもよいといった弁護士を殺害する
と、聞かされる。
なぜ?

おそらく現役の弁護士が書いたと思われる本作品集は、
おそらく細かなエピソードには現実が反映されている。
デフォルメされて事件を解いているが、
弁護士としての経験が反映されていよう。
法律家が書いたわりには、条文をこねくり回すようなこともせず、
わかりやすい物語展開となっていて、好感が持てる。

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