女信長 ― 2006-10-04
佐藤賢一 毎日新聞社 1800円
織田信長は女だった。
帯のキャッチに興味を引かれていた本だ。
店頭で見かけたときから、買う寸前まで行くも、見送り続けていた本だ。
奇抜な発想でかかれたものは、往々にしてつまらないものも多い。
確かに信長像には女性を想わせる点が多い。
色が白く、小柄で、執念深く、甲高い声。
女だといわれれば、なんとなく納得できるところがある。
だけど、男であったとしても、何の不都合のない特徴である。
なのに、女という設定で書くのは破綻しないかと想ったのだ。
信長 あるいは戴冠せるアンドロギュタス 宇月原晴明
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2006/08/30/504419
で、両性具有の信長という設定の物語を読んだから、
女信長という設定に不安を感じながらも読んでみることにした。
この作品は毎日新聞での新聞小説として発表され、
かなりな話題を提供した作品だということで、
物語としてはとても上手くまとめられている。
信長の女としての生き様・考え方は、なるほどよく作られている。
一気に読みきらせるだけの魅力は持っている。
信長が早くから鉄砲に着目したのは、非力な女ゆえ可能だったする点や、
既存の権威を否定したのも、女ながらに男性社会に挑んだからとする点は、
なるほど新しい見方である。
あまりストーリー設定について書くと、読む気がそがれるので、
これ以上は内容について触れないでいたいと想うが、
読み終えて感じた感想をあらわすと、触れざるを得なくなる。
まず、信長が女に戻るとき「お長」を名乗るのだが、
お長は懐柔のために、道三に処女を与え後援を得、
勝家に体を与えることで、信行から引き抜き、
長政には恋心を持ち、
光秀には安心を感じ、ついには男と女となっている。
帰蝶とは友達という関係であり、
お市にも女であると知られている。
光秀を除いても、これほど多数に女であることを知られているのに、
中でも長政が知っているのに、秘密が保持され続けている点が、
どうにもこうにも解せないという感想がある。
信長の子どもたちも、信行の子どもだったとしているのであるが、
これとて秘密を知るものは多数いるはずなのに、
信長が女であることは隠しとおせるのだ。
この物語が手放しで絶賛できないところは、そこにある。
しかし、信長として生きているお長が、女を捨て去ってしまえば、
この女信長の魅力が成り立たなくなってしまうのだ。
特に、光秀の本能寺の愚挙への光の当て方は、
お長という存在がなければ絶対に解釈不可能となってしまう。
作品の最後に配された家康と天海=光秀の会話もまた成立しえなくなる。
大きなほころびが生じているのにも拘らず、
「女信長」が成功しているのは、信長の先見性はお男としての思考ではなく、お長の思考によって生まれたとしたからに他ならない。
秀吉の妖怪性は、近年評判となった
「信長の棺」をはるかに越えている。
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2005/12/01/162677
秀逸。
が、僕としてはこの項で取り上げた作品の中では、
「信長の棺」が一番しっくりと読めて。
織田信長は女だった。
帯のキャッチに興味を引かれていた本だ。
店頭で見かけたときから、買う寸前まで行くも、見送り続けていた本だ。
奇抜な発想でかかれたものは、往々にしてつまらないものも多い。
確かに信長像には女性を想わせる点が多い。
色が白く、小柄で、執念深く、甲高い声。
女だといわれれば、なんとなく納得できるところがある。
だけど、男であったとしても、何の不都合のない特徴である。
なのに、女という設定で書くのは破綻しないかと想ったのだ。
信長 あるいは戴冠せるアンドロギュタス 宇月原晴明
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2006/08/30/504419
で、両性具有の信長という設定の物語を読んだから、
女信長という設定に不安を感じながらも読んでみることにした。
この作品は毎日新聞での新聞小説として発表され、
かなりな話題を提供した作品だということで、
物語としてはとても上手くまとめられている。
信長の女としての生き様・考え方は、なるほどよく作られている。
一気に読みきらせるだけの魅力は持っている。
信長が早くから鉄砲に着目したのは、非力な女ゆえ可能だったする点や、
既存の権威を否定したのも、女ながらに男性社会に挑んだからとする点は、
なるほど新しい見方である。
あまりストーリー設定について書くと、読む気がそがれるので、
これ以上は内容について触れないでいたいと想うが、
読み終えて感じた感想をあらわすと、触れざるを得なくなる。
まず、信長が女に戻るとき「お長」を名乗るのだが、
お長は懐柔のために、道三に処女を与え後援を得、
勝家に体を与えることで、信行から引き抜き、
長政には恋心を持ち、
光秀には安心を感じ、ついには男と女となっている。
帰蝶とは友達という関係であり、
お市にも女であると知られている。
光秀を除いても、これほど多数に女であることを知られているのに、
中でも長政が知っているのに、秘密が保持され続けている点が、
どうにもこうにも解せないという感想がある。
信長の子どもたちも、信行の子どもだったとしているのであるが、
これとて秘密を知るものは多数いるはずなのに、
信長が女であることは隠しとおせるのだ。
この物語が手放しで絶賛できないところは、そこにある。
しかし、信長として生きているお長が、女を捨て去ってしまえば、
この女信長の魅力が成り立たなくなってしまうのだ。
特に、光秀の本能寺の愚挙への光の当て方は、
お長という存在がなければ絶対に解釈不可能となってしまう。
作品の最後に配された家康と天海=光秀の会話もまた成立しえなくなる。
大きなほころびが生じているのにも拘らず、
「女信長」が成功しているのは、信長の先見性はお男としての思考ではなく、お長の思考によって生まれたとしたからに他ならない。
秀吉の妖怪性は、近年評判となった
「信長の棺」をはるかに越えている。
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2005/12/01/162677
秀逸。
が、僕としてはこの項で取り上げた作品の中では、
「信長の棺」が一番しっくりと読めて。
ネット犯罪から子どもを守る ― 2006-10-04
唯野司 MYCOM新書(毎日コミュニケーションズ) 780円
インターネットが急速に浸透してきている現在、
親にとって子どもを守るために何をすべきかを説いている。
ネットにおける犯罪は多様化する一方だ。
子どもへのリテラシー能力の育成は、学校が果てしてくれると思ったら大間違い。
親が一番最初の防波堤として、子どもとネットの関係を見守る必要を、
本書ではくどいほど説く。
コンピューターを買い与え、ネット環境を提供した後、
子どものアクセスを管理しないでいる親が多い現状に警鐘を鳴らす。
フィルタリングソフトについてさえむしらないでいる親などは、
子どもがトラブルに巻き込まれることを考えもしない点で、
無責任だと指摘している。
長崎で同級生を刺殺した女児の事件を分析しながら、
リアルに友人と会話する能力がない子どもに、
自由にサイト運営させたりすることが、危険な状況かということをしらしめる。
ネットのありようをよく知らない親に対して、
子どもに何から教えていけばよいかという、
具体的な提言がなされている本書は、
子どもを持つ親への啓蒙書であるとともに、
ネット初心者すべてに対する啓蒙書である。
インターネットが急速に浸透してきている現在、
親にとって子どもを守るために何をすべきかを説いている。
ネットにおける犯罪は多様化する一方だ。
子どもへのリテラシー能力の育成は、学校が果てしてくれると思ったら大間違い。
親が一番最初の防波堤として、子どもとネットの関係を見守る必要を、
本書ではくどいほど説く。
コンピューターを買い与え、ネット環境を提供した後、
子どものアクセスを管理しないでいる親が多い現状に警鐘を鳴らす。
フィルタリングソフトについてさえむしらないでいる親などは、
子どもがトラブルに巻き込まれることを考えもしない点で、
無責任だと指摘している。
長崎で同級生を刺殺した女児の事件を分析しながら、
リアルに友人と会話する能力がない子どもに、
自由にサイト運営させたりすることが、危険な状況かということをしらしめる。
ネットのありようをよく知らない親に対して、
子どもに何から教えていけばよいかという、
具体的な提言がなされている本書は、
子どもを持つ親への啓蒙書であるとともに、
ネット初心者すべてに対する啓蒙書である。
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