彩雲国物語 はじまりの風は紅く2006-11-19

雪乃紗衣 角川書店 \459(込)

2003年に刊行されたライトノベル。
第一回角川ビーンズ小説大賞受賞作品だということだ。
角川ビーンズ文庫というのは、電撃文庫とかスニーカー文庫といった、
YA狙いの文庫の一つという性格のようだ。
電撃やスニーカーは主として男性がターゲットといえなくもないが、
ビーンズは女性が主対象となっている。
したがって少女マンガ雑誌ののりが色濃く出ている。
この彩雲国物語にも、ボーイズラブ的な要素がかなり強く出ている。
また、登場する人物がすべて美男美女という点でも、
少女マンガののりを髣髴とさせる。

物語の舞台は中国の王朝を意識している。
六部制とか科挙といった、中国旺盛を背景に使っている。
それなりに中国古代中世史に、精通とまでは言わないが、
興味を持っているようで、中国史の影響が色濃く出ている。
1巻を読む限り、舞台設定はまあよく練られていると感じた。

名門貴族・紅氏の本来なら棟梁として生まれながらも、
一族より失格とみなされひっそりとした官に就いている父を持つ、
16歳の娘・秀麗が主人公。
お人よしの父は、立身に興味が無く、家計は火の車。
秀麗は近在の子どもに学問を教えたり、アルバイトに精を出し家計をやりくりしている。
父娘には、静蘭という同居人がいる。
数年前に行き倒れているところを養育することとなった男である。
20歳を少し超えたばかりというが、美貌の武芸の達人である。
彼も英詩として働き、家計を支えている。
秀麗は知らなかったが、彼は彩雲国の王家の一員であった。

彩雲国では王位継承者が互いに殺しあう内紛を起こし、
ただ一人・無能とみなされていた劉輝を残しすべて死に絶えた。
劉輝が結果、王を継ぐこととなったがね彼は暗君であり、
政治を省みようとしなかった。
そこで高官が考えたのは、身の回りで彼を善導するものを立てようとした。
そのものには后として入内させ、劉輝に政を学ばせようというのだ。
門跡だけは名門の秀麗に白羽の矢が立ち、
劉輝の教育係りとして入内を果たすこととなった。
劉輝は同性愛者として知られており、女性には興味がないという。
さて、秀麗は無事、劉輝に王としての自覚と責任を与えることができるのだろうか。
と、言うのが本巻でのメインストーリーとなる。

まあいろいろとおかしな点はあるのだが、全体としてはテンポよく、
意外な話が展開して行き、飽きさせることはない物語となっている。
主人公の設定が絶妙で、女性でありながら管理を目指すものの、
男性のみが官吏となる社会に阻まれ、
国を良くしようという大志を燻らせている、平凡な容姿の女性が、
時代をいかに打ち破っていくかという成長物語に続くのである。
主とする読者層にとっては、まことに適した設定といえる。
劉輝と静蘭が仲のよい兄弟であったという点や、
秀麗の父は、本当は凄腕の暗殺者であったとする点などは、
ちょっとやりすぎという感を拭えないが、
物語り全体のテーマから見たときには、目をつぶっていることができる。

YA本としての位置づけで見たら、まあ良品に近いということができる。
ただし、主要登場人物の設定にはとっぴなものが多すぎるのは気にかかる。
この調子で次々と人物が登場すると、得体の知れない小説となる危険をはらむ。

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