君が世界を見捨てても世界が君を見捨てない2007-03-19

瀬戸しおり  幻冬舎  1300円

幻冬舎という出版社は気合が入った著作が多い。
この本も、恐ろしいほどの気迫に満ちた一冊である。
ただし、僕には好きにはなれない種類の本です。
「だから、あなたも生き抜いて」と傾向としては似ています。
タイトルは甘い感傷に満ちたものを想像させるのに、
書かれている内容は、きついっすよ。

瀬戸しおりさんは、23歳で行政書士として独立し活躍されています。
その著者は、この世に生を受けてより、不幸を背負って生きてきた。
このように言うしかない凄絶な人生を歩んできています。

家庭では
アルコール依存症で反社会性発達障害を持ち児童虐待をする父親。
亭主の暴力でPTSDを持つばかりか、娘に過度の期待を強いる母親。
学校では
暴力と侮蔑的言辞をもって生徒に臨む教員と中学で出会ってしまい、
登校拒否に引きこもり、保健室登校など散々である。
それでも勉強はできたから成績は優秀で進学校に入学したものの、
突然パニック障害に襲われるは、
それとは別に成績が優秀すぎ東大現役合格の期待をかけられたことから、
過度の緊張を強いられ、そのストレスからリストカッターになる。

まあ、一人で何もかも溜め込んだものだ。

結局、リストカッターになってしまった彼女は東大入試に失敗し、
一浪して中央大に入学。
で、今度はチャット中毒。チャットで知り合った相手と恋愛から失恋。
流産はするは、恋人と思ってた男には捨てられるは、
その痛手から立ち直ろうとしたらレイプ。もうむちゃくちゃです。

彼女自身に容姿にコンプレックスもあったのか、
こっから先の転落は早い。
キャバクラ嬢、援助交際、果てはAV女優です。
自分の居場所を見つけるためにあがきながら深みへと突き進む。
で、結局、孤独感から大量服薬で死の直前にいいたる。

このまま死んでしまっていたら、この本はできない。
彼女はたまたまよい出会いがあり、現実を取り戻すことができ、
生還してきた。

境界性人格障害と摂食障害という状況から生還したのは、
彼女の底に眠る強さが引き出されたこともあるのだろうが、
献身的とも言える医師との出会いがあったからだ。
あらゆる障害の根底にある孤独感が払えたなら、
彼女のような状況からも生還できるのだ。

タイトルの意味がここにある。

一人で背負い込むのでは解決がないと知らせる一冊なのだが、
果たしてこの著者のような助けを求める人の目に留まるのかが問題。
また、著者自身がこの本を書いた重みを、
跳ね返すだけの強靭さを持ちえるのかも心配。

家庭的な問題や人との関係性に悩む人に勧めたいが、
勧めて未来が見えるのかすら不明。
それでも人との交流が、出会いが、大切とのメッセージは重い。

内容がメルヘン好きな僕の嗜好に合わないので、
よい本とは認めつつも、著者の赤裸々に語りきる勇気に驚きつつも、
この本は嫌いです。

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