蛇にピアス2008-01-03

渡辺ペコ(原作・金原ひとみ)   集英社   400円

ヤングユーにて発表された同名原作のコミック化。

原作自体が好きなタイプの作品ではなかった。
虚無的な生活を描くことに意味があるのかと考えていた。
確かに目新しい書き手ではある。
サディズム、マゾヒズム、同性愛、暴力、
セックスさえ痛みを伴い、死と隣り合わせ。
若く魅力的な女性が書くことで話題性もあったろう。
だが、そこに広がる世界など、あまりに何もない世界で、
こんなものを現代を代表するものと持ち上げてよいのかと反発していた。

その小説のコミック化である。
ヤングユーは、レディース・コミックという位置づけなのだろう。
ただし、性愛を中心としたものとは違い、
大人の少女マンガを目指していたものといえるのだろう。
2006年に休刊となっているが、
「おいしい関係」ほかの人気作も輩出させている。

その中で「蛇とピアス」は、性愛と暴力を題材にしていた点で衝撃的だったのかもしれない。

人並み以上の用紙を持つ主人公。
将来に対する夢とてなく、退廃的に怠惰な日々を送っている。
クラブで出会った男のスプリット・タンに魅せられ、
痛みこそ自己の存在理由として捉える。

死すら救いでなく、永遠の牢獄にいる。
傷つけることだけが生きている証だとは、その世界は煉獄だ。

そんな世界をコミックにする。
試みは半ば成功しているのかもしれない。
絵が加わることでイメージの実体化が容易になっているといえよう。

しかし、原作の持つ嘔吐感の再現までには到らない。

…どっちにしたって、この作品世界を拒否したい。

夏の終わりにオフサイド2008-01-03

山際淳司   角川書店   500円

1995年に46歳でこの世を去った、
スポーツライターの第一人者、山際淳司。
彼の残した著作は、死後10年を越えた今でも輝き続けている。

名高い「江夏の21球」を始め、
彼の作品は徹底的なインタビューを重ね、
人物の心の襞を描ききるところにある。
その徹底振りは、時として本人さえ意識していないものをあぶりだす。

本書は、そうした一連のものに比べると、
やや軽く書き流しているかの印象がある。

アリやマッケンローのほか、
無名の成功者ではないものたちにスポットを当てている本書から、
スポーツに魅せられ囚われた者たちの思いが、
直接体にしみこんでくる。