ちんぷんかん2011-01-17

畠中恵    新潮文庫    514円

「しゃばけ」シリーズ6冊目。

皮衣という高次の妖の孫だが、
人ならぬものを見ることができるという以外、
何の特別な力もない、
ばかりか病弱でいつでも死んでもおかしくない
大店の一人消す子・一太郎と若旦那と仲間たちが、
江戸の町で大活躍する人気シリーズだ。

これまで文庫化されたものは読んできたが、
そろそろ飽きてきた。

一つ一つの物語は、なるほど面白い。
テンポもよいし、笑いもあれば泣きもある。
安心して読める佳作だとは思っている。
が、結局のところは妖を登場させる必要などないじゃないかと思う。
確かに妖がかかわることで、
独特な雰囲気を作り出すのに成功しているのだけれど、
必然という気がしない。
佐助や仁助などという若旦那の守り役も、
大妖とされ人離れの能力を示しもしているが、
妙に人間臭くなりすぎているように思ってしまう。

なんか繰り言ばかりになったけれど、
たぶん次が出たらやっぱり買って読んでるには違いない。

いちばん初めにあった海2011-01-17

加納朋子  角川文庫   552円

推理作家とされる加納朋子だが、
この人の作品では殺人事件などおきない。
もしかしたら、他の作品では、そうした作風もあるのか知らないが、
これまで読んだものでは見当たらない。
といっても「掌の中の小鳥」
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2006/05/10/359954
のほかには「ささらさや」と「モノレールねこ」しか読んだことはない。

いづれもちょっとした日常の中の謎を扱っている作品で、
謎解きよりも登場人物たちの心の動きをさらりと見せる、
そういうことに力点が置かれていると感じる。

だからなのか連作短編が多い。

この作品は中編といってよい長さだ。
150ページほどの表題作と、
それよりは小ぶりな「化石の樹」の2編が収められる。

表題作のほうは、心の傷の大きさから、
ある種の記憶喪失といってよいのだろう状態の女性が主人公。
人はあまりの衝撃を受けると記憶を書き換えることがあるようだ。
そうした記憶が、ある言葉から再生されていく様を描く。
過去と現在が交互に語られる中で、
彼女の謎が暴かれていく。
そこにある二人の感情は、
そういう関係性が、奇跡だけに、すがすがしいと感じる。
ちょっと時間軸に不思議を感じたけれど、佳作。

「化石の樹」は青年の語りで進められる。
古木の中に挟まれていた手記は、
ある保母が記していた一組の親子のことが書かれていた。
保母は、幼さを残す美しい母親と、
笑顔を忘れた少女のことをつづっていた。
不幸な事故によって母親が転落死した日までを。
ある疑惑を抱きながら。
保母は記憶を樹に託していた。
そのノートは樹の再生を手がける職人によって、
樹から取り出された。いろいろな不思議なものと一緒に。
職人のもとでアルバイトをしていた青年が、
縁があってそのノートを託され、
そこに秘められていた手がかりを追う。
そして保母の記録の核心に思い至るのだ。

ある少女の子供のころの記憶に新たな光が与えられた時、
少女は解放されることになる。
新しい恋と一緒に。

加納明子の作品を推理小説という風には、
僕には読めません。