夕凪の町 桜の国2005-09-13

2004年に双葉社から発刊されたコミック
文化庁メディア芸術祭でマンガ部門の大賞を受けた作品とある。
著者は1968年広島に生まれた「こうの史代」

あとがきで『こうの』氏は
広島に生まれながらも、
「原爆の問題は他人の家の事情と思って踏み込まないようにしていた。」
といいます。
しかし、ヒロシマを書いてみないかとの依頼に一瞬臆しながらも
触れないでいることの不自然で無責任との想いから
この『夕凪の町』を描くことに決めたそうです。
著者よりずっと以前に生まれ、1950年代を知っている僕にとって、
著者の描く1955年には見覚えがあります。

だからヒロシマの悲惨さを知らなくても、
戦争の匂いを少しだけ知っているから、
この作品の語りの哀しさが理解できます。

『夕凪の街』は戦争が終わって10年
原爆の生き地獄のなか、家族を失い
人間としていきることに気後れを感じる一人の女性が主人公です。
亡くなった姉や妹そのほかの人たちへの申し訳なさ
『ヒロシマ』の惨状の中での自己の行動への負い目などから
生きていることに気後れしている彼女が
一人の男性と出会って、ようやく生きようとしたとき、
原爆症が悪化し死に臨む姿を描いている。
この終わりのない物語を見て
戦争や平和を考えてみることも必要な気がします。

『桜の国(一)』は『夕凪の街』で触れられた疎開していた弟が登場します。
それから20年近くがたった時代を描いています。
『桜の国(二)』はそれからさらに10数年後の物語です。

どちらでも『ヒロシマ』は続いています。
だけれど、『夕凪の街』での悲壮さは随分と薄れています。
とりもなおさず、その時代感が、
戦後60年間の日本人の心のありようを示しているのではないか。

戦争や米軍が使用した劣化ウラン弾への理解を放棄する日本人。
その背景にある人間の不幸を見ようとしない日本人。
どこか遠くのものに過ぎないと幻想を抱く日本人。
そうした日本人が増えていないことを祈る。

10点

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