図書館戦争2006-09-20

有川浩  メディア・ワークス  1680円(込み)

著者はライト・ノベルで活躍中の人で女性とのことである。
非常に高い評価を受けているようであるが、
僕にとっては、期待はずれだった。

設定自体は、現代の言論統制への危惧や、
社会病理がおきる要因にメディアの荒廃が影響しているとする論評、
そういったものたちを巧みに取り入れ、
起こりうる可能性の高い社会を提示していて面白い。

しかし、この作品においてはメディア良化委員会と図書館がそれぞれ武装し、
相反する二つの法律をたてに虚虚実実の戦いをしているとしているのだが、
そこに大きな見識のずれをみいだししてしまう。
公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる『メディア良化法』ができ、その実効を果たすためメディア良化委員会が結成され、
法の枠を超えた権限を委員会に付与し武装化している点は、
法治国家としての体裁を逸脱しているものであり、
その上に図書館にも自由を守るために武装化を許すなど、
もっともらしく説明がなされているが、土台成立するべくもない考えなのである。
メディア良化法が作られ、それを実行する組織に巨大な権限を付与し、
武装化を許すような社会は、すでに民主主義など瓦解し、
独裁国家になっているのである。
仮に図書館の自由に関する宣言が、国連ででも承認され国際立法化していおり、
日本がその条約を批准でもしているのでない限り、
この本に提示された未来は起こりようがない。
そうした点が無視されてしまっていて、全体の話としては無茶だ。
こういった点で、本作品が面白いとはいえないのだ。

著者は図書館の自由に関する宣言などについて言及しているが、
大学などで図書館学を修めているのかもしれない。
が、その見方は、図書館に寄り添った考え方としか言いようがなく、
日野の事例を肯定的に捉えている。
公共図書館の終焉は、僕などはむしろ日野市の試みから、
その崩壊を加速させていると感じることがあるくらいなので、
この作品の底流の思想に対しては、やや平板に流しすぎていると感じた。

現代の公共図書館の運営指針が、日野市の取り組みを正当化したことで、
効率優先主義にとらわれ、結果として図書館の自由を奪ったと見ている。
図書館評価の指標が利用されている実績に偏ったため、
硬派の書籍作りを死していた出版社が、
その書籍・雑誌を廃刊に追い込んだことなどは無視されていると感じる。
せっかく集書した資料を、それも利用率向上のために副本化しておき、
旬がすきれば、一部の市民に払い下げるようなことがまかり通っている。
少なくとも僕は図書館にそうしたことを望まない。

図書館の自由に関する宣言は理念として賛同する。
しかし、「図書館戦争」に見られる思想には賛同しかねるのだ。
それでも、現代の言論統制を行おうとする意思を、
まったく荒唐無稽な設定とはいえ指摘して見せる点で、
この著作は優れている。
ライト・ノベルとしてみたとき、突出して良質なものと感じる。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://kumaneko.asablo.jp/blog/2006/09/21/532027/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。