陽気なギャングが地球を回す2006-09-25

伊坂幸太郎  祥伝社  880円(込み)

日本では、軽妙でユーモアを感じるような悪漢小説って、見かけない。
なんだか鬱陶しいしがらみにまみれた小説が多くて、
からっとした小気味良い物語が少ないように思う。
そうした中で本書は貴重な味を見せつける。
まるでアメリカ中西部ののり。映画化に最適。
現に映画化されて公開されたあとだし。

うそを見破る名人。演説が巧みなうそつき名人。
すりの名手にして自然至上主義者。体内時計を有し名ドライバーの子持ち女。
と、ある事件で結ばれた4人の特別の才能が、
銀行強盗をまじめに取り組むこととなった。
人を殺さず盗むためには、すばやく威圧、すばやく巻き上げ、すばやくずらかる。
成功率100パーセント。

ところが現金輸送車強奪犯とニアミスをし、せっかく奪ったお宝を横取りされる。
果たして4人組は奪回を計画し、活動を開始する。

入り組んだ人間関係というほどでもないが、
銀行強盗をする4人と、現金輸送車襲撃犯には人の接点がある。
この接点を見破るのに、人間嘘発見器とすりの名手の技が炸裂する。

スピード感に飛んだ話の展開は飽きさせない。
読むのが愉しくなる一冊だ。

プチ哲学2006-09-25

佐藤雅彦  中公文庫  648円

「考える」ことを忘れていることがある。
新聞もテレビも口コミも、見せたいことを選んで伝えることが得意で、
僕たち一人ひとりは、見たい、事だけを見ようとしている。
情報だけは多いけど、一面だけしか見ていないことを忘れてしまう。
自分が何を見ているのか「考える」大切さを見失ってしまっている。

考えるということは、哲学の始まりといってよいらしい。
数学が哲学の一部というのは、なんとなくわかる気がする。
考えることで真理に近づこうとする人たちはつくづく偉大と思う。
僕などは、ヘーゲルやキルケゴールですら、
咀嚼できぬまま年を取ってしまった。
哲学なんてのは、できれば敬遠したいなと思っている。
だけど「考える」ことが大切だとはわかっているつもりなのだ。

「考える」ことが、相対的に苦手になってきているのが、
現代人なのかもしれないと思うことがある。
僕の生まれた時代に比べ、覚えなければならないことはどんどんと増え、
今の人は情報を追うだけで精一杯のようだ。
価値観が多様化し、情報は膨大になり、
何かを「考える」ことは、とても難しくなってしまったのだと思う。
だから、ろくに「考える」ことを試さず、安易に他者の意見に盲従し、
「考えた」気になって、最初に見えたものを結論と錯覚してしまっている。

このプチ哲学では思念をこねくり回したりせず、
他愛ない絵と文で、他愛のない話題を提供した上で、
ものの見方の多様性について「考えて」いる。
哲学の本が難しいと思う人ならば、「考える」時間が惜しいという人は、
本書に上げられる31の発見を読むとよい。
「考える」ことの大切さに、きっと気づくだろう。
ほんの少し見る位置を変えること、その風景から「考える」のは容易いのだ。