猫たちの聖夜2007-01-28

アキフ・ピリンチ   早川文庫  640円

ドイツで1989年に発表された作品。
ドイツ・ミステリ大賞を受賞した名作だということだ。
日本では1994年にハード・カバーで、1997年に文庫になっている。
文庫は現在も入手可能なようだ。
動物もの、とりわけ猫物が好きな人で、もし未読の人がいるなら、
ぜひお勧めしたい作品である。

ストーリー展開が秀逸な上、猫たちの生態が実に的確でありながら、
ミステリとして極上の輝きを放っている。

頭脳明晰な雄猫フランシスが、相棒のグスタフの付き従い、
古ぼけたアパートに引っ越してきた。
その建物はフランシスに不気味な印象を与えていた。
越してきた早々、フランシスは同属の無残な惨殺死体を発見する。
近所を縄張りとする猫"青髭"によれば、
このような猫殺しが複数起きているという。
フランシスは持ち前の観察眼と好奇心で検分し、
どうやらその猫は同属の手にかかり殺害されたと判断する。
青髭の紹介で、その町の長老猫である、
コンピューターを自由に扱うパスカルと協力して、
フランシスは、連続猫殺しの調査を開始する。
この町の猫たちは猫の司祭ヨーカーが説くクラウダンドゥス教に熱狂している。
この教えは、人間の虐待により死したクラウダンドゥスを崇め奉るものであった。
連続殺害事件とクラウダンドゥス教との結びつきを疑うフランシスだったが、
関連が見えてこない。
調査が難航する中、さらに新たな事件が頻発する。
発情した雄猫ばかりと思われた被害者が、
去勢されたものやメス猫にまで及んだのだ。
パスカルの助言や霊感によってフランシスは事件の核心に迫っていく。
しかし、フランシスの霊感は事件の見せる相貌へ違和感を残している。
果たしてフランシスはパスカルたちの協力を得て事件の解決を果たせるのか。

この物語の中で、人間はそうたいして猫社会に干渉はしない。
しかし、事件の背景には人間の思い上がった意識や、
それに付随する虚栄心などから、
動物に苦痛を与えて恥じない驕慢がある。
動物実験の招いた悲劇こそ、フランシスの追い求める真実にある。
フランシスが真実を解明し、猫殺害の真犯人を割り出したとき、
真犯人が「動物がいい人間で、人間が悪い動物だ。」と語っている。
人類はこの言葉を警句として生きねばならないと思わせる。
フランシスの語る飼主・グスタフがいなければ、
この物語は暗澹とした思いだけを残すのではないだろうか。

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