三国志 第5巻2007-01-29

宮城谷昌光  文芸春秋  1619円

宮城谷三国志も後漢の行く末を決定付ける史実へ差し掛かる。
官渡の戦いが、この巻での中心となる。
演義での描写と異なり、袁紹が皇帝たらんとする強い野望を持っていた点、
劉備の節操のなさを明らかにしている点などで、
より史実のほうに忠実であるといえる。

演義でも袁紹の無能力さは触れられているが、
さらに袁紹陣営の派閥争いについて分析していることで、
袁紹が没落していく過程が自壊にあると知らされる。

トップたるものの資質が教えられる点において、
この巻での曹操の行動ほど参考になるものはない。
部下の進言に耳を傾け、その長所と利点を認めるや、
すばやく決断し、実行する。
その上で策が破れた場合でもトップの責任として不問に付す態度、
こうした資質に恵まれたリーダーがいれば、
弱者が強者に化けることができるのである。

勢力の差を埋め合わせたものは、ほかにもある。
度量の大きさにある。
袁紹が裏切りや敵対に対して厳しい処断をしていくのに対して、
曹操は帰順したものは恩讐を乗り越え、幕下に加えていくのである。
裏切りに対してさえ、寛容を持って再度の基準を受け入れることで、
殺すより活かすを貫いている。
その姿勢のぶれのなさが、
曹操を覇者へと押し上げていく過程を描いているのが本巻である。

曹操の最大の資質は、失敗したときの分析にある。
結果を招いた原因を自身の責任にまで冷静に公表し、
同じ過ちは2度としないのである。

演義と異なり、曹操のリーダーとしての器の大きさが見えてくる。

魏・呉・蜀、それぞれの礎を築いたリーダーがそろう本巻は見逃せない。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://kumaneko.asablo.jp/blog/2007/01/29/1147694/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。