少年は戦場に旅立った2007-03-18

ゲイリー・ボールセン   あすなろ書房   1200円

著者は1939年米国生まれ。1966年作家デビューを果たしている。
米児童文学界の代表的作家だそうで、邦訳も数冊出ている。

この作品は実話に基づいている。
15歳で年齢を偽って南北戦争に志願兵として従軍し、
戦争で負った心身の傷が原因で23歳で亡くなった、
チャーリー・ゴダードがモデルである。
作中に描かれている戦闘はすべて史実にあったものであり、
チャーリー少年が過酷な戦闘に身を置いていたのも事実である。
著者自身の覚書で、この作品ではいくつかの創作を行ったとしているが、
現実のチャーリー少年が参加していない戦闘にも立ち会ったとしたことで、
作中にある兵士の死体を弾除けに使用したことなどは、
激しい戦闘のもとで事実行われているのである。

児童文学として書かれた本作は、
児童文学に普遍的に見られる、「冒険」「友情」なども含まれている。
が、それを覆いつくしてしまう死の匂いと、
戦闘によって蝕まれていく人間の心が描かれ、
読むものを虚無的な絶望に引きずり込んでいく。
戦場という空間の異常さに気づかされるのである。

人類が文明を得てこのかた、国と国の間で戦争が起き、
数々の生命が直接先頭により命を落としていった。
それにもまして、戦場の異常さに耐え切れず精神に以上をきたし、
普通に生きることが難しくなってもいる。
PTSD(心的外傷後ストレス)の結果の重大さは、
漸く広く知られるようになってきたが、
戦争を遂行した国は、戦争によって傷ついた者たちに、
何の保障もしてこなかったのである。
多分、これからだって一人ひとりの障害に対してまで、
国が面倒を見ることはないのだろう。

チャーリー少年は、戦争に沸き立つ民衆の熱気を感じ、
国というものを守り、且つ男として独立して暮らすチャンスと捉え、
15歳という年齢を隠し義勇兵に志願することを決める。
母の「まだ子どもなのに」という言葉を振り切り、
従軍することで得られる給料を仕送りもできると、
夢を偉大いて終結地へと向かうのだ。

15歳という年齢をごまかし入隊すると、日々、訓練に明け暮れる。
義勇兵たちはいつまでも訓練だけの日々に不平すら言うのだ。
しかし、戦況が激化し、いよいよ戦場に出会ったときから、
義勇兵たちは死と隣り合わせの現実に怖れ、
殺すことのみを考えるようになる。

チャーリー少年もまた、死ぬか殺すかの戦場に精神が歪んでいく。
南軍の少年とのつかの間の交流でさえ、
将校から咎められるものでしかない。
人を人としてみていられない世界が戦場なのだ。

いくつもの激闘の末、当初いた1000人の義勇兵は、
ほとんどが死ぬか大きな負傷をしていた。
南北戦争が終わったときには、チャーリーも深い傷を負っていた。
郷里に帰り、何とか生きていこうとした彼だが、
23歳のある日、公務員として選出されていたのにもかかわらず、
拳銃を使い自殺してしまう。

この短い物語が語る戦争の姿を見て、
なお、戦争が必要悪だと言い切れる人間は、
なお、軍事力が必要とのたまえる人間は、
自らは兵士として生きることがないとわかっているか、
何も考えない愚者なのかもしれない。

今一度、国と国との戦争ということを考えてみる契機になる一冊。
友達同士の喧嘩とは違うのだ。戦争は。

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