「他人と深く関わらずに生きるには」2007-06-09


池田清彦 著   新潮文庫  362円

今、大きな政府を小さな政府に変えようとする動きが加速している。
小さな政府というのは、あらゆる規制を緩和させ、
自由な競争を推進することで、
効率のよい経済活動を保証するという試みである。
これによって、能力があり、運もよいものが、より豊かになり、
反面、能力に秀でるものが無く、運も悪いものは
豊かさから遠くに押しやられていく社会構造となる。
公平な出発点が保障されないこの変革の流れは、
実は既得権益を継承させる方向にあるのではないかと指摘するのが、
本書における池田氏のスタンスである。

さて、本書では刺激的な文句が並ぶ。
「ボランティアはしないほうがかっこいい」とか
「心をこめないで働く」などの見出しには、まじめな人なら激怒しそうである。
だがちょっと待ってほしい。
ボランティアという言葉を誰が言い出したか思い出してみるがよい。
最近の若者の公徳心のなさを憂うると騒ぎ、
心の教育が必要などと、私的諮問機関に答申させ、
教育のプログラムに盛り込ませ、
評価の基準にしてしまうのは暴挙とも思える。
確かに人のために何かをするという美徳は、
一見日本から消え去っているように感じる事件が多い。
だけど、相変わらず若者も含め、
ちょっとしたきっかけがあれば人助けを誰もがしている。

そもそも口当たりのよいボランティア精神を唱え、
行政や立法が果たさなければならない責務を果たさない政府に、
納税者はシビアな目を向けなければならないのだ。
目の前に困っている人がいて助けることは人として当然の行為だ。
だが、困っている人すらいないのに
ボランティアを要求するのはどこかおかしい。
ボランティアを奨励している向こう側に見え隠れするのは、
本当は欺瞞ではないのか。
世の常識というものを疑ってかかることを本書は教えている。
日本を見つめ直すきっかけになる本だと感じる。

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