『クライマーズ・ハイ』2007-06-09

横山秀夫著  文芸春秋  2003刊   \1,571
 テレビドラマや映画に横山秀夫作品は引っ張りだこである。
ミステリともいわれる横山作品は、犯人当てを主眼とするものではなく、
犯罪にかかわる人間たちの心の闇を語る作品が多い。
作風を一言で表現するとしたら人情噺だと私は思っている。
小さな何故にこだわる作中人物たちが、
より大きな意思の下で苦悩し妥協しながらも、
こだわりを追い求め解き明かしていく中に、
さまざまな人の心の奥を語る。
その果てに見えるのは安寧の心なのだから読者は解放を感じるのだ。

 『クライマーズ・ハイ』は地方新聞記者の悠木を主人公にした
山登り小説である。
 物語は山登りのシーンから始まる。
60も近い悠木と20歳代の男がクライミングする”今”がある。
悠木は「下りるために登るんさ」との
18年前に聞いたなぞの言葉の真相を考えながら。
初老ともいえる悠木がクライミング中に過去を回想する。
物語は”今”と”過去”が交互に語られ進んでいく。
 過去の悠木にはいくつもの心に抱える闇があった。
売春婦だった母の記憶。部下の自殺。息子との葛藤。
すでに古参社員となっている彼にとって、
何かと鬱屈がたまる日々が続いていた。
そんな彼を元クライマーの安西が、
何人もの登山家の命を飲み込み
魔の山と呼ばれる谷川岳・衝立岩の登頂に誘うのであった。
出発日の夜、御巣鷹山で墜落事故が発生し、約束を果たせなくなる。
一人で出発したはずの安西もまた、
山とは無関係の歓楽街で倒れ、意識が戻らない。
未曾有の巨大事故の全権デスクを命じられた悠木は、
社内の確執に翻弄されながらも取材指揮を執る一方、
歓楽街に倒れた安西の言葉の答えを考え続ける。
二つの「魔の山」を過去の悠木は乗り越えられるのか。
そして、“今”の悠木は現実の山を乗り越えられるのか。

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