『海の史劇』2007-06-09

吉村 昭 著   新潮社(文庫)  2003刊(1981)  ¥890

 2004年は日露戦争開戦から100年の記念年だった。
百周年ということもあり、今年は日露戦争関連本がたくさん出版されたし、
関係者の再評価も進められた。
例えば乃木大将は、名称→愚将→やっぱり名将だった?、
というように評価はこの100年で変わってきている。
著名な日本海海戦にしても、
東郷元帥の綿密な作戦であったとする評価から、偶
然に助けられたとする見方が出たりしている。
今年発売された書籍は時代を背景にしてか
戦争を賛美する傾向が強いかなと感じたが、
ここで紹介する『海の史劇』は25年近く前に発表された作品で、
戦争の滑稽さが浮き出るようになっている作品である。

日露双方が、国の興廃を賭けて、国力の限界まで戦うこととなった。
緒戦で制海圏を失ったロシアが
世界最強の海軍国としての誇りをかけ大艦隊を派遣する。
大遠征に向かう艦隊を歓呼で送り出す圧倒的な場面に始まり、
連合艦隊司令長官東郷平八郎の死で終る。
日露両国の資料を綿密に読み解き、七カ月に及ぶ大回航の苦心と、
迎え撃つ日本側の態度、海戦の詳細、
講和に至る経緯等々を克明に描いた記録・戦記文学。
登場する人間たちの人格にまで踏み込んだ物語に圧倒される。

吉村氏のさめた頭脳は、この後に続く日本の悲喜劇の原点を、
日露戦争の顛末で見据えている。
日本軍・日本国の隠蔽体質は日露戦争当時にも見受けられ、
その遠因を作ったのは国民であることをも示唆している。
このような情報操作は、対テロ戦争に用いられていないといえるのか。

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