大延長2011-11-04

堂場舜一     実業之日本社     720円

著者は1963年生まれ。
読売新聞社で社会部記者やパソコン雑誌編集者を務め、
そのかたわら小説を執筆し、2000年に野球を題材にした「8年」で
小説すばる新人賞を受賞した。
受賞後の第2作は「雪虫」で、警察小説と俗に言われるミステリ。
以後、スポーツ小説と警察小説の両分野で作品を発表している。
著作数は40作を超えている。多作家と言える。

「大延長」は2007年に発表された高校野球を題材とした傑作。

大会屈指の好投手を擁し、初出場ながら決勝戦に臨む公立進学校・新潟海浜。
決勝の相手は、圧倒的打撃力を誇る甲子園常連の西東京代表・私立恒正学園。
海浜のエース牛木とキャプテン春名は、
恒正の四番打者・久保とリトルリーグでのチームメート。
両校の監督・白井と羽場は大学時代のバッテリー。
相手の性格も戦力も知り尽くした夏の全国高等学校野球選手権大会・決勝は、
両校譲らず、延長15回の引き分けとなり再試合に持ち越された。

海浜は生徒たちが自主的に物事を決める伝統がある。
恒正は、監督が管理下に置く野球を実践している。
羽場は、有望な投手だったが、大学選手権での優勝と引き換えに投手生命を失っている。
白井は、強打者でありプロに進んだが、故障から引退、指導者に転身している。
守の海浜と打の恒正。
選手の個性が前面に出るチームカラーと
選手に個性を求めないチームカラー。
対照的な両チームの対決である。

海浜はキャプテン・榛名春名の大会前の負傷欠場にのみならず、
エース牛木の連投を、彼の将来を考える羽場の決断で投げさせないと決めた。
戦力的に劣勢に立たされた海浜は苦戦が予想される。
一方の恒正には、選手の喫煙が決勝直前に発覚し、チームに動揺が走っている。
監督の白井は、諸事情も絡み移籍話を水面下で行っていたが、
それが白井の苛立ちに輪をかける結果となる。
ましてあろうことか移籍話は選手に発覚してしまい、動揺は広がる。

そうした状況で決勝は開始される。
下馬評通りの打棒で優位を確立した恒正に対して、
海浜は結束力と驚異的な粘りで対抗する。
不測の事故なども重なり、役者が全員揃った決勝の大舞台は、
熱く語られている。

奇跡の試合は、かかわった者たちを大きく成長させていく。

両監督の選手時代に監督だった滝本がラジオ放送の解説者。
野球の輪廻が、奇跡の決勝戦の舞台を整えた。
この結末こそが、スポーツをする者たちの喜びなのだろう。