陽だまりの彼女2011-11-12

越谷オサム    新潮文庫     514円(別)

「陽だまりの彼女」! 
素敵なタイトルじゃあないか。

陽だまり…。
僕は思うんだが、冬の日のお日様がさす窓際だとか、
とにかく寒い日だって、光が集まってポカポカしているところっていい。
ぼおっとして、まどろんでしまったりしてね。
そういう恋を描いているのかもしれない。

ところで陽だまりと言えば“あれ”。
生まれ変われるなら“あれ”っていうほどに憧れている。
もしや、この小説、“あれ”がらみなんか?
だとしたら読まずばなるまい。

とにかく『階段途中のビッグノイズ』はよかった。
あの作者なのだから、読後に買わなきゃよかったと思うことはないだろう。
仮に甘い恋愛に終始したとしても、読むに堪えないほどには甘くなるまい。
期待満々で読み進めた。
期待以上の面白さだ。

一粒で2度美味しいは、アーモンド・キャラメルのキャッチだった。
それ以上。一冊でどんどんテイストが変わっていく。
さわやか恋愛小説からミステリへ、
ミステリからミステリーへ、SFかと思わせ、
ファンタジーだったりする。
もう一冊でどれだけの要素入れ込むの。
作中では人もめまぐるしく変わる。変わる。
“あれ”の伏線もてんこ盛り。
こんなに楽しい物語はほかに知らない。

奥田浩介と渡来真緒。
広告会社の新人社員・浩介。新進アパレル会社の企画の真緒。
打ち合わせの席で10数年ぶりという劇的な再開を遂げる。
中学生だった真緒は、知的な、そして美しい女性になっていた。
再会した二人は懐かしさも手伝い、たちまち恋に落ちた。

中学の時転校してきた真緒は、きれいな女の子だったけれど、
奇妙な行動が多いうえ、学校有数のばかと称され、
いじめの対象になっていた。
その有様を見、我慢しきれず介入した浩介も、
切れるやつとの烙印を押され孤立する羽目になった。
孤立した者同士、中学時代二人はとても仲良く、
恋人といっても差し支えない関係になっていた。
だけれど家の都合で浩介が転校し、
少年期の気恥ずかしさなどもあって、
離れ離れになっていた。

序盤は、二人の微笑ましい、ゆっくりとした恋の温め方がさわやか。
中盤に差し掛かり、真緒の家族の反対に、
駆け落ちするんだというあたりがほんわかさせる。
このあたりから“あれ”の姿もちらちらしだす。

中盤過ぎからは、真緒が浩介に秘密を持つとわかる。
このあたり二人の新婚生活がどこに行くのかと心配させる。
でも、二人で乗り越えるところがさわやか。

終盤に差し掛かるあたりでは、
真緒の言動が不安を誘う。
遺言めいた言葉が多くなるなど、
バッド・エンディングが待っているのかとハラハラさせる。

最終盤、ついに真緒が姿を隠す。
悲恋でおしまいかと思っていたら、
サプライズを用意する。

ラストの2ページのやり取りが見事。
「真緒、お前、金魚のブライアン食ったろ」
見事すぎる言葉で、すべてを変えるマジックに、やられました。

“あれ”そのものな性格の真緒に恋したい。
で、この小説は一言でいえば、
“あれ”の物語ということです。
小説そのものも“あれ”みたい。