そしてベルナは星になった2006-09-28

郡司ななえ  角川書店  514円

2002年に単行本として出版されたものの文庫版。
郡司さんの著作は「ベルナのしっぽ」が映画化されたことで、
再出版なり、文庫化が目白押しとなっている。
「ベルナのしっぽ」は盲導犬を道具としてみるのではなく、
使用者自身が、家族の一員として盲導犬を語った点で、
一挙に盲導犬への理解を広めた作品だと思っている。
ベルナ以前は、福沢美和の「フロックスは私の目」あたりが、
盲導犬普及の広告塔的な役割を担っていたが、
盲導犬の偉大さを追求していて、視覚障害者の生活のなかで、
盲導犬はスーパードッグだという錯覚を持たせていた感がある。
よく読めば、そうではなかったのだが、犬がすばらしいという風に思わせた。
ベルナが郡司さんの手によって紹介されたことで、
盲導犬も普通の犬に近づいてきたうえ、使用者の資質や苦悩に光を当て、
盲導犬が等身大に表現され豊かな個性が与えられ、
学童を中心に、使用者と犬との結びつきの強さに感動を広げた。
ベルナが書籍として登場したのが1996年。
郡司さんは、この10年の間、2頭目のガーランド、3頭目のペリラと、
ベルナに始まった盲導犬との生活を発信し続けている。
そのいずれもが人のつながりの強さ、盲導犬と使用者の強い絆を、
情緒たっぷりに伝えている。

本書は「ベルナのしっぽ」をはじめとした
郡司さんの本を多数読んでいる僕にとっては、
新しい発見も、新しい感動もない。
ただ、過ぎ去ったものを追憶しているものとして読んでしまう。
だけど、「ベルナのしっぽ」が、ベルナに光を当てていたのに対して、
この本ではベルナと家族の絆を強く意識させ書き綴られている。
その意味では、家族と盲導犬という観点に限定して捉えれば、
「ベルナのしっぽ」よりすぐれた読み物となっているといえる。
大きな活字で書かれている本書は、
難しい漢字も少ないので、子どもに最適だと思う。
家族の絆なり、盲導犬と視覚障害者との結びつきを知るのにはよい。

ひとつ気になるとすれば、郡司さんのたち位置は、
盲導犬ユーザーとしては特殊なのだが、
それが一般的なものとして捉えられないかという点がある。
リタイアさせて、退役犬ボランティアに任せるという選択が、
一般的なユーザーがとらなければならない宿命なのに、
それが冷たい印象に早合点させないかと思う。
郡司さんは「リタイア」という著作で、
ベルナの死を見届けた心境を冷静に分析しながら、
他のユーザーがパートナーとの別れに際して何を考えたかを追跡し、
自らの現在の揺れる心情を綴っている。
ペリラが息絶えるまでともに過したいとの思いと、
リタイアさせて新しい盲導犬を迎え生きていくべきとの思い、
その心の葛藤を切り裂いていくのだ。
あわせて読みたい。

リタイア 郡司ななえ
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2005/10/04/98372

コメント

_ ベルナ大好き ― 2007-02-01 18:06

私もこの本を読みましたが、今までこんなに楽しみに本を読んだことがありませんでした。でも、この本を読んでみたらとても勇気を与えられました。ベルナはとてもいい盲導犬だと本を読んでいる時にわかりました。最初は、大変そうだったけど、次第に郡司さんと良いパートナーになって呼んでいる私もうれしくなってきました。でも、最後はベルナは星になってしまって残念でした。でも、天国でも今までどうりに生活をしてほしいです。これからもこの本を読みつづけていきたいです。

_ くまねこ@犬の下僕 ― 2007-02-01 23:42

ベルナ大好きさん

いい本に出合えてよかったですね。
ずっと読みたいと思える本に出会えるのは、
郡司さんの本は、優しさが滲み出してきて、
読んでいる人の心にもじんわりと沁み込んで来ます。
ほんとにいい本ですよね。

一生のうちでも、そんなにたくさんないです。
僕にとって何度も読み返したい本は、
「フランダースの犬」が最初で、
ほかには「グレイが待っているから」が思い出されます。
伊勢秀子サンという人が書いた本です。
盲導犬じゃない、普通の犬との生活を描いているのですが、
犬との暮らしに、命の大切さや、命の強さを見つけています。
もし読んでいないなら、探してみてはいかがでしょう。


_ ぱぐぅ ― 2007-02-02 00:38

「グレイが待っているから」はイラストもいいよね。
何年か前、文庫本になっているのを見たよ。
癲癇と戦ってたグレイ、お星様になっちゃったけど、
おいらの心の中には、いまも生きてるよ!
タイトル忘れちゃったけど…続編も好きだったな!

_ くまねこ@犬の下僕 ― 2007-02-02 23:41

続編のタイトルは「気分はお座りの日」
そして最後の作品が「グレイのしっぽ」
どちらも文庫になっています。

でも理論者から出たハードカバーで見るほうが
イラストの可愛さがよくわかるよ。

伊勢さんが絵描きで、伊勢さんの描くグレイが、
ほんまに好き好きって感じが溢れているから、
ぽかぽかしてくるよ。
でもね、病気が深刻になってしまってからを描いた「グレイのしっぽ」は
絵まで切なくて、辛くて読めない。
楽しく読んで、ちょっぴり感動するなら「グレイが待っているから」がいいですよ。

_ ぱぐぅ ― 2007-02-03 22:06

うん…なんと言ってもハードカバーで見るほうが、絶対にいいよね♪
「グレイのしっぽ」は、グレイがお星さまになった後、部屋の片隅にたまってたグレイのぬけ毛…泣けたよ。
ワンコは元気で楽しい日々が…なんたって一番だよね。

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