火怨 北の熠星アテルイ 上巻2007-01-31

高橋克彦  講談社文庫  762円

1997年から1999年にかけて新聞小説として発表された作品で、
2000年に吉川英治文学賞を受賞している。
著者にはNHKの大河ドラマにもなった「炎立つ」をはじめとして、
東北地方を舞台にした歴史に題材を求めた作品群があり、
いずれも高い評価を受けている。

「火怨」は、学校ではあまり習うことのない、
蝦夷と大和との戦いが題材となっている。

もともと日本は、西日本の連合国家と、
それに組み込まれていない蝦夷の部族集団が存在していて、
大和の支配権は現在の東北地方までは及んでいなかった。
しかし、東北地方に金が産出することで、
大和朝廷が東北の富を搾取するため進出し、
武力で勢力を拡張しようとしたため、
大規模な抵抗が生まれるのである。

日本の人口が1000万人にも満たないとされている古代で、
5万・10万の兵力で蝦夷地に平定を企てるも、蝦夷に散々に負け、
そのため、以後20年近く朝廷と蝦夷の間に戦闘が続くのだ。
坂上田村麻呂に全権を与えて、漸く東北に安定が得られたとされている。
その蝦夷側の英雄がアテルイであり、参謀のモレである。

「火怨」に登場する主要人物は大半が続日本紀などに名を留めており、
間違いなく実在したと考えられるが、
資料に欠落が生じており、戦闘の変遷ははっきりとわからない。
その隙間を高橋氏は縦横に駆け巡り、
各地の伝承などを集め、戦後処理のありようなどから、
高橋氏が導き出した蝦夷の抵抗は、実に力強いものを感じさせる。

「炎立つ」に先立つ時代を描いた本作品に、
人が人として生きる矜持を感じ取るのは僕だけではないだろう。

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