ウェルカム・ホーム!(児島律子)2009-05-20

鷺沢萠 原作 入江紀子 作画    秋田書店    

原作の鷺沢萌は1968年に生まれ、2004年に35歳で生涯を閉じた女性作家だ。
女子大在学時にデビューし、コンスタントな捜索活動を行っていた。
何度も芥川賞の候補となるなど、才能豊かな人であったらしい。

作画の入江紀子は『ぶ〜け』など女性誌を中心に活躍している漫画家。
1987年にデビュー。すでに中堅どころになっているようです。
入江作品は過去に「笑う犬の生活」を読んでいる。 
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2005/12/15/178843
そこそこに気に入っていたようです。

原作の「ウェルカム・ホーム」は鷺沢死去前の2004年に発表されている。
入江がコミック化した児島律子編と、
もう一編・渡辺毅編という2中篇が収められているらしい。
小説のほうは未読なので感想のしようがない。

入江の「ウェルカムホーム」は2005年に発表となっている。
作品は、40歳を越えた女性の独白、
「私の過去には「形のある何か」が、全くないなあ」から始まる。
児島律子の設定は、40歳の時点では秘書の付く外資系企業のキャリアウーマン。
その律子の下に久部良と名乗る青年がやってくる。
石井聖奈という女性のことについて話があるというのだ。
そして律子の回想へと移行していく。

律子は短大卒業後証券会社に勤め始め16歳年上の顧客と結婚、そして流産から離婚、
その後海外留学を経、米国で就職、日本支社設立を期に責任者格で帰国、
業務でイベント企画会社の石井と出会う。
娘の聖奈に魅せられたように2度目の結婚。
鹿しか価値感の違いから石井の家族にはいらだち、
石井の甘ちゃん振りにも嫌気を感じていた。
それでも娘と思っている「聖奈」との関係を大切に感じて耐えていたが、
ついに我慢も頂点を越え破局、離婚に至る。
自分についてきてくれると思っていた娘にもそっぽを向かれてしまう。
そうした空虚さを抱えての独白が冒頭に挙げられたものだったわけだ。

久部良とは何者であったのか、実は聖奈の配偶者たるものであった。
沖縄のリズムを持つ彼が、すれ違っていた血の繫がりがないけれど、
実は互いに求め合っている家族を繋ぐメッセンジャーという設定。

現実の話では、連れ子への虐待がママ起きている。
律子の場合、子供が産めないということが連れ子への深い愛を呼び起こしたのか。
そのあたりは別なテーマになりそうである。

形ばかりを追い求めている石井家の家族のありようの醜さに比べ、
聖奈と律子の親子関係の清々しさは、逼迫間を打ち払う清涼感がある。
原作を読んでみないことには、漫画家としての入江の視点はわからない。
漫画としての読後感はしっかりとある。
ものの15分で読み終えてしまうが、読後感は小説一冊分の重さはある。
原作がいいのか、漫画家の力量がそうさせているのか、
どちらであろうか。

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