他人と深く関わらずに生きるには2006-07-21

池田清彦  新潮文庫  362円

2002年に単行本として刊行されたものの文庫化。
内容は刺激的。僕としては、良くぞ言ってくれたと、感じる一冊。

今小泉という暴力装置を前面にして進行しているのは、
大きな政府を小さな政府に見せかけようとする企みだ。
自由な競争を推進するといいながら、
実は既得権益を継承させる方向に導くなどしている。
こうした流れを徹底的に暴いているのが、本書の特徴だ。

大体政府が国民に対して何かを言ってくるときは、
どこかでとんでもない隠された意図があるものである。
ひとつ例を挙げれば、介護保険なんてその代表格ではないか。
国民健康保険や国民年金を扱う巨大システムがありながら、
わざわざ別系統の権益を作り出して見せたことは記憶に新しい。
介護から家族を自由にさせるため、新たな制度が必要といっておきながら、
それまでの福祉制度と共通しない枠組みと仕組みを導入し、
巨大な許認可権という権力装置を生み出させ、
最初から破綻することが予想されている制度を生み出すことで、
ある種の省益を確保したとしか見えないものを作り上げた。
まさにミラクルマジックである。
介護保険で要介護に認定される難しさは驚くばかり。
誰も喜べないシステムに成り下がっている。

さて、本書では刺激的な文句が並ぶ。
「ボランティアはしないほうがかっこいい」『心をこめないで働く』
などの見出しには、まじめな人なら激怒しそうである。
だがちょっと待ってほしい。
ボランティアという言葉が定着しているが、
誰が言い出したか思い出してみるがよい。
最近の若者の公徳心のなさを憂いうると称し議員たちが騒ぎ、
心の教育が必要などと、私的諮問機関に答申させ、
教育のプログラムに盛り込ませてしまったのは誰なのかを。
そもそもボランティアなどという言葉でごまかして
大きな政府が果たさなければならない
さまざまな事柄がなされていないことから目をそらさせているのだ。
僕はボランティア精神なんて教えられたくはないと思っている。
目の前に困っている人がいて助けることは人としての行為だが、
困っている人すらいないのにボランティアを要求する政府なんて信頼しない。
その意図はなんなん?と、はしゃいでいる人に問いただしたいと思う。
ボランティアを奨励している向こう側に見え隠れするのは、
本当は欺瞞ではないのか。

世の常識というものを疑ってかかることを本書は教えている。
今の日本がどれほど危険な雰囲気に流されているのかがわかります。

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