悲しみは去ったけれど 32006-09-23

仕事が終わり帰宅した後、「そらん」とのさびしい散歩をしながら、
「ごお」が帰ってきたら、今まで見たいに甘えたらあかんと言い聞かせた。
さんぽから帰ってきても、「ごお」のいない家は静まりかえっている。

順調に回復し、家に帰ってくると信じていた。信じようとしていた。
朝になって、「順調に回復しています」との連絡がくるのを期待していた。
容態によっては、少々無茶でも、往診に来てもらうなりして、
自宅に連れ帰り療養させようなんて考えていた。
一抹の不安だったのか、ベッドに横になっても寝付かれない。
「ごお」がいない寂しさに耐えていた。
珍しく甘えてくる「そらん」を撫でなから、「ごお」の無事を祈った。
寝付けないまま、さまざまなことを思いながら、いつしか眠りに落ちていた。

階下から呼ぶ声が届いた。「動物病院から電話」
時計を見た。午前8時過ぎ。嫌な予感がした。
電話の向こうから声が聞こえた。「朝早くから…。」
「あかんかったんですか。」何も考えられなくなった。
「返してくださいといったのに。当直もいてないですもんね。」
愚痴を言うつもりはなかった。だけど、出てきたのは愚痴しかなかった。
「迎えに行きます。」
電話の向こうでは説明をしようとしていた。だけど、早く電話を切りたかった。
夢を見ているんだ。思い込もうとした。だけど現実は変わらない。
服を着込み、「あかんかった」と母に伝え、「そらん」を抱きしめる。
何をすべきなのか迷った。玄関に座り込み、涙が出ていないのを確認した。
クルマの整理を始める。メッシュケージを下ろし、遊び道具を下ろし、
「ごお」を迎え入れられるようにする。
「そらん」は僕を見て乗っていい?と問う。だめだよ。待っといて。
「そらん」をおいて車を出すす。病院への道は歪んで見えている。
泣くまいと心を決め、病院の受付に行く。
お悔やみが聞こえたような気がする。少しして「ごお」の元に案内される。
ダンボールのお棺に入れられた「ごお」がいた。
寝ているとしか思えない。呼べば振り向いてくれると思った。
しゃがみこんで頭をなでる。体をなでる。暖かくてやわらかい。
何度か名前を呼んだのかもしれない。泣くまいとして堪えていたのに、
いつの間にか流れてくるものが押さえられなくなった。
「朝、寝ているように思ったのですが、処置しようとしたら脈がありませんでした。」
いろいろと説明していた。取り出した異物も見せてくれた。
でも、もう聞きたくなかった。
どうにかこうにか搾り出していった。
「治療費の清算をお願いします。」
後は上手く言葉にできなかった。もはや泣きじゃくっていた。

「ごお」を車に乗せ、自宅に戻ることにした。
病院のスタッフが見送りに出てきた。
自宅まで「ごお」を運ぶ手伝いに二人ついてきてくれた。
車を運転する間、何とか涙を押さえようとしていた。
無理なのはわかっていたが。

リビングに棺を安置すると、一礼してスタッフは帰っていった。
「そらん」は帰宅したとき、棺の匂いを嗅ぎはしゃぎかけたが、
様子がおかしいと思ったのか、大人しくしていた。
棺を覗き込み、鼻で「ごお」を2-3度つつくと戸惑ったようだ。
何かが違う。
母と二人、「ごお」を覗き込んでいた。撫で、さすり困惑していた。
この棺じゃ寂しい。花を、おもちゃを、つめ始めた。
「そらん」と二人、引っ張り合い、奪い合っていたぬいぐるみも入れた。
僕のTシャツも入れた。長年使っていたリードもコートも入れた。
花を入れ、おやつを入れ、牛骨も入れた。
「そらん」が持って噛んでいる「ごお」のお気に入りも取り上げて入れた。
返して欲しいのか、「そらん」は棺まで来て一度は咥えたが、戻した。

しばらくぼおっとしていた。「姉」にも連絡しとかなければと思った。
電話したら、姉もボスを連れてお別れにきた。
ボスはやってくるなり小躍りして入ってきて、
「ごお」を見て固まった。恐る恐る匂いに来て、動かぬことを確認すると、
棺の中から「ごお」とよく奪い合ったぬいぐるみを持って離れていく。
暖かくて柔らかかった「ごお」の体は、少しずつ熱を失い硬くなってきた。

「ごお」が手術してたことをしっている人たちが、心配して電話してきていた。
「ごお」がいなくなってしまったことを知り、
大好きだったミカンを持って、お別れに駆けつけてくれた。
僕にとっては朝から少しも時間が流れていなかった。
だけど時計を見ると正午を過ぎていた。
遺体となってしまったけど、ずっとおいておきたいとも思った。
だけど、それはできない。
霊園に電話する。
少し早いけれど、火葬することにした。
霊園からのお迎えは2時過ぎに来た。
火葬場まで行き、読経をあげた。
4時過ぎに納棺し最後のお別れをした。
6時に骨あげし、小さな骨壷に収まった「ごお」と一緒に帰宅した。
家にはボスもいて「そらん」もいる。
だけど「ごお」がいないことが体中を寒くしていた。

それから丸一年が過ぎた。
きょう彼岸の中日が「ごお」の一周忌だ。
悲しみは去ったけれど、さびしいとすまなさは消えていない。

この2日間のことは、吐き出してしまわなければ、涙がとまることはない。
一周忌を迎えて、吐き出してみた。
悲しみは去ったけれど、哀しみとすまなさは消えてはいない。

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