楊令伝 九 遥光の章2009-05-08


北方謙三    集英社    1600円

4月末に出版された。
前巻まで宋禁軍と梁山泊軍は戦機の熟すのを、
地の利を生かして少数の梁山泊軍が、軍勢で優る禁軍を包囲する形で対峙し、
ひたすら待ち続けていた。
童貫と楊令の思い描く戦機は、全線に渡っての消耗が始まったとき唐突に訪れる。
楊令が史進に語った一言が、宋軍の意表をつき、有力将軍が討ち死にする。
し史進率いる遊撃大河縦横に暴れまわる最中、
童貫と楊令がつかの間邂逅し、一瞬が楊令に軍配を挙げる。
宋禁軍は総帥を失ったことで有力な軍勢を抱えたまま撤退し、
禁軍対梁山泊の戦いは、梁山泊の勝利で終わる。

戦後処理に入った梁山泊は、民の国という理想を楊令が示し、
新たな戦い、民政上の戦いに踏み込む。
交易を柱とする国のありようを考えた楊令の軍略は多方面に神経が行き渡っており、
金と宋の戦いへの介入も見事に決まる。
その策が決まることで、事実上宋朝廷は潰えたに等しい。

しかし、禁軍が壊滅したわけではなく、岳飛や劉光世といった将軍が、
それぞれ大都市を根拠に軍閥化していく。
司令塔さえしっかりしていれば、宋も無力化したわけではない。
しかし、李富のものとなった青蓮寺は宋朝廷の求心力を阻害する形で動く。
李富もまた夢を見るようになっていたのだ。
群雄割拠状態の宋と、北方の金。
梁山泊はその対立の狭間で民の国を目指す。

12世紀初頭の東アジア情勢をダイナミックに取り入れた北方水滸伝は、
新たな局面に入る。
中国人にとっての英雄・岳飛も、その伝説のような物語を彩る脇役を次々と登場させている。
史実にそった物語になる以上、最終的には金と南宋の戦いの中で岳飛は、
秦檜の謀略で命を落とす。彼を操る黒幕は李富ということになろうか。
来た方水滸伝の行方に目を離せない。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://kumaneko.asablo.jp/blog/2009/05/08/4291987/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。