少年少女飛行倶楽部2011-11-15

加納朋子    文芸春秋    562円(別)

加納朋子の作品は、これまで感想こそ書いていないものの、
何冊か読んでいる。かなり作風が好きな作家なのです。
唯一ブログに載せているのが「いちばん初めにあった海」      
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2011/01/17/5640402
です。ほかに「掌の中の小鳥」とか「ささらさや」なども読んでいます。

「少年少女飛行倶楽部」は2009年に刊行された作品。
先だって文庫化されたところです。
ケッチャムと「なまづま」で消耗しきっているので、
さわやか~なものを読みたいと思っていたので、
「陽だまりの彼女」に続けて読みました。

やっぱりいいです。加納さん。
ささくれ立って歪んだ気分を、見事まっすぐに直してくれた。

登場人物が良い。
部長の斉藤神、その姉にしてどこまでも透明な天使、
神の幼馴染で野球部と兼部するさわやか野球少年・中村海星、
中学生になったばかりの腐れ縁仲良し佐田海月と大森樹絵里、
二人と同じ小学校から上がってきたゴシップ少女・イライザこと戸倉良子
高所平気症という病とは言えないけど、それがもとで騒動を起こす仲居朋、
親の願望からつけられた名前にコンプレックスを持つ餅田球児、
それぞれの書き分けがとても良い。

これまでの加納作品で見られたミステリ色は、
わずかに登場人物の名付けに反映しているくらいで、
青春小説の、それも著者の望んだとびきり明るい、
王道というべきものに仕上がっている。

佐田海月の通うことになった中学は、
全員が強制的になんらかの部に入部しなければならない。
運動系のクラブにも、文科系のクラブにも、
いまいち入部する気にならないでいたところ、
腐れ縁の幼馴染、樹絵里に引きずられ、飛行クラブに入部することになる。
飛行クラブは、その名のとおり空を飛ぶのが目的、
でも部員は二人だけで正式な部ですらない。
部長は斉藤神(じん)、尊大で常に上から目線である。
どうやら数々の武勇伝をも筋金入りの変人。
副部長は、樹絵里が一目ぼれしたさわやかな野球少年・中村。
さすがに入部をためらい、海月は顧問・立木の元へ相談に行く。
そこで立木から斉藤を頼むといわれ、
樹絵里の切なる願いもあり結局は入部してしまう。

飛行倶楽部の目標は、文字通り空を飛ぶこと。
飛行機などで飛ぶのではなく、風を感じることが条件。
でき売ればピーターパンのような自由飛行が望ましい。
目標はいいが、さきだつものは何もない。
第一、 部長と副部長しかいなかったからクラブですらない。
海月と樹絵里が入部しても、なお足りない。
なぜか部員探しから始めることになった海月たち。
これまた歩くゴシップ週刊誌みたいな戸倉良子から情報を得て、
恐怖感を知らないために四階から落ちたという仲居朋の勧誘に成功。
同時に中村が、親の付けた名の呪につぶされそうになっている
野球部に入部したけど野球嫌いの餅田球児を勧誘してくる。
やっと部になったものの、揃ったのは変なメンツばかり。
空を飛びたい飛びたいといいながら、
尊大なカミサマ部長には具体的な手立てなどまったくないのだ。
まずは金と、空を飛ぶ方法。

自分をものぐさだと称する海月は、自称でしかなく、
あれやこれやと方策を考える羽目となる。
その過程で、ぱっとしない球児、朋、
隠されていた面が顕され、神さえ変わっていく。

さて、本当に空を飛ぶことなんてできるのか? 

戸倉良子と樹絵里の関係なども含め、神様部長と姉・天使の関係など読みどころ満載。
青春物語としては一級品だと思う。
それぞれの親たちも魅力的。
いただけないのは立木くらいだ。

加納さんの名前遊びも楽しい。
朋で「るなるな」明で「さるな」
海月は「みずき」と読むがクラゲの意味があり、
海星は「かいせい」だけれどヒトデだし、
天使は「エンゼ」で、神は「天使」を守る意でつけられているし、
宝石のように大切だから樹絵里ね。
ほんまに名は人を縛ることがあるなあと、妙に納得。

今度も満足できず2011-11-21

8月末以来となる八ヶ岳行を決行した。
今回は2泊3日の予定。
残念ながら、今回も、雨にたたられた。

いつもの通り零時ごろに出発して、
午前1時ごろの帰阪を考えていたけれど、
初日と二日目はともかく遊べはしたけれど、
3日目は朝から雨。
ほつぽつしているだけなら遊びも強行できようが、
レインスーツを着込ませないとダメなほどの降り。

あきらめて買い物だけ済ませて帰ることにしました。

高原のパン屋さんでお菓子を
びっくり市場で農産物を、
リゾートアウトレットで僕の冬物衣料を、
それぞれに買って、
小淵沢から高速に乗ったのは2時前。

リゾートアウトレットでは、
犬たちを散歩させられる程度の小雨になっていたけれど、
買い物中にどしゃ降りになりだした。

高速では、時折小降りになるものの、ずっと雨。
雨で滑ったのか、伊北の手前では事故渋滞。
あとは還るまで事故渋滞はなかったから、
前回よりましだとはいえ、時間を取られる。
近畿圏に入るまで、雨は所々で激しかったし、
飯田からは風が相当に強い状態だった。
高速は、小淵沢から小牧まで50キロ規制だ。

帰路は、だから犬たちにとっては、退屈なものとなった。
散歩させてやれたのは内津峠だけ。
それもレインコートを着せてのもの。
そのあとは菩提寺で休憩しただけ。

8時40分ごろ家に着いたが、
「そらん」にとっては物足りない八ヶ岳行だったことだろう。

いい加減に忘れたふりだけでもしないと、ね2011-11-26

死んだ子の歳を数える
そういうのはあまりよくないとは思う。
いつまでも吹っ切れないでいては、
死んだ者も成仏が出来ないというような話も聞く。
だから、もう骨は土に返してやるべきだろうし、
もう僕の思いで縛ることもやめるときなのだと思う。

だけど、忘れられない。

『そらん』に『はいら』、2頭だっていい子なのだ。
どこに出しても恥ずかしくない犬たちだ。
『そらん』の喧嘩っ早さは問題ではあるが、
僕差益を抜かなければ問題は回避できる。

ジョンやボスも、僕にとってはいい犬たちだった。
こんなに犬に恵まれていていいのだろうかというほどに。

ほんとに特別だった。

いつまでたっても、死んだ子の歳を数えてしまう、
弱っちい飼い主です。

空想キッチン2011-11-28

柳田理科雄は一連の空想科学読本シリーズで人気の作家だ。
名の『理科雄』は本名とのことである。父により命名されたらしい。
名のとおりに成長し、科学が好きな少年時代をすごしていたようだ。
大学に進み、宇宙物理を学ぶつもりだったというが、
在学中に学習塾を立ち上げるため中退した。
が、塾は経営に行き詰る閉鎖されたという。
なかなかの経歴の持ち主である。

ケンタロウについては、何者であるのかトンとわからなかったのだが、
相当に人気のある料理研究家だとの事だ
。この人は母が料理研究家としては巨星ともいえる小林カツ代で、
子供時分から料理のことは、一般の人よりよく知っていたのだろう。
最初はイラストレーターを志していたが、イラストの仕事が不調で、
母の元で修行し直し、料理研究家として活動し始めている。
すでに多数の著作を持つ。

この異色の経歴を持つ二人が、対談という形で、
人気アニメの中の料理を語っているのである。
ちゃんとした知識を持つ料理研究家が、空想の中の料理を、
場合によっては再現し、実際に食べてしまう。
大真面目にしているからこそおもしろい。
扱うアニメはオバQ、ラピュタ、ポパイ、ハイジ、ど根性ガエルなど、
新旧取り混ぜて13本から選ばれる。

画面から製造工程を分析したり、大きさを判別したり、
果ては宮崎アニメの細かな点の描写の感心して見せたりと、
『空想科学読本』の成り立ちそのものとなっている。
薀蓄を語る本だが、知っていて役に立つ薀蓄など、
一つとしてないほど。

柳田氏は、『空想科学読本』シリーズでは、
切り口がいつも同じで、面白いといえば面白いが、
もうおなかいっぱいと感じさせられるのだが、
『空想キッチン』では、
ケンタロウ氏の話を引き出すことに徹していて新鮮。
いつもの科学談義が、料理を語るときのスパイスにすらなっている
。なかなかの好著に仕上がっている。
ただし、これまた『空想科学読本』と同じく、
中途半端な知識しかないものには、ねた本としては使えない。

探偵・花咲太郎は閃かない2011-11-29

入間人間  アスキー・メディアワークス   530円(税別)

入間人間という作家は、西尾維新より少しましだけれど、
僕が嫌いな作家である。
最初に読んだのは『660円の事情』だった。
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2010/08/05/5268755
この作品は面白いと感じていたのだが、
この後に読んだ『うそつきみー君と壊れたまーちゃん』が、
ほとんど絶望的なまでに、大嫌いな世界を展開させていた。
西尾維新と同列の、
理由のないお手軽で意味のない殺人がてんこ盛りの、
人が悪人でも善人でもない、非常に不安定なものとして描かれていく。
こんな作品が好きになれるわけがない。
こんなのが売れる世の中って絶望的な世界と思うのだ。
だからほんとに嫌いなのだ。

なのに読む。

人というのは訳のわからない衝動に支配されるものだと、
しみじみ感じる。

語り部は、犬猫の捜索がメインの探偵・花咲太郎となる。
彼の努める探偵社は司法書士事務所を併設する、
たまに浮気調査の依頼が入れば大事件に属するという程度の事務所だ。
また彼は13歳の美少女・トウキと暮している。
太郎は、その性癖としてロリコンである。
隠そうとしないし、同病者とは異なり、
ロリコンの追求にいそしみ少女を手篭めにはしない程度に常識的である。
彼の探偵としてのポリシーは、
名探偵のように類まれな推理力など必要なく、
地道な調査が出来る体力が基本というものである。
だから、名探偵のような閃きなど持ち合わせていないと言い張っている。

ところが作品を読み進めるとわかるとおり、結構推理力は高いのだ。
まあご都合主義的ではあるが。
彼が自らを名探偵でないと言い張るのには、
トウキという存在が原因となる。
このトウキ嬢は直感だけで犯人がわかるという異能者なのだ。
異能はそれだけに留まらず、
彼女の行くところには死体が生れるようである。
根っからの探偵体質の持ち主ということだ。

さて、殺し屋家業の木曽川、同僚のエリオット、所長の飛騨牛と、
どこか非常識な日常を展開するだけの物語になっている。
ここに豊かに成長する人間などはいないし、
豊かな関係なども存在しない。

ただ無為であるだけだ。