空の境界(全2巻)2008-08-12

奈須きのこ   講談社   上巻1100円  下巻1200円

同人小説として登場し、2001年に自費出版されたものを、
圧倒的な支持を受け、2004年に出版された作品。
著者は1973年生まれの男性らしく、
同人ゲーム『月姫』なるもので注目されたという。 
「空の境界」は『月姫』と共通する部分が多いということらしい。
SFやメジャーミステリを好んでいるということで、
その世界観は、過去の伝奇小説に、それらの味を加えており、
重層的な精神世界を表現している。
本作品はすでにアニメ化がされており、DVDも発売された。
現在は文庫化もなされた。文庫では全3巻となる。
新伝奇ムーブメントとの冠を戴き、熱狂的ともいえるファンを持つ。

物語のほうだが、個人としては好きではない成り立ちなものの、
さくさくと読み進めることができた。
そういう意味では、世界の構築や背景にぶれがないものといえる。
魔法使いと魔術師の違いなどと、やたらややこしいところもあるが、
著者の捉え方に慣れたら、すんなりと受け入れられる。

この物語の成功は、両儀式という主人公の設定がひとつに挙げられよう。
あらゆる物の死を見る特殊能力を有する、
殺人の技に長けた和装の似合う美少女。
もともとは式と織という男女二人の意識を有するものだったが、
コクトー幹也という少年との関係から2年間の昏睡の結果、
式という少女のみが生き残ることとなったという点だ。
もうひとつは世界観にある。
敵役として登場する荒谷宗蓮と式の関係。
コクトーと呼ばれる日常を根城とする少年に対して、
宗蓮は非日常に位置している。
宗蓮の目的は根源を探ることにある。
たいしてコクトーは、ありのままを諾としている。
その両者の中間を両儀式は揺れ動くのだ。

結局は両儀式はコクトーのいる日常に止まるものの、
終章において式でもない、織でもない両儀式が登場し、
物語にずっと漂う違和感の正体を明かす。
この時点でコクトーという存在も、
両儀式という存在も「食う」であるということが明かされ、
また別の物語の存在を匂わせ終了する。

時間軸に気をつけていないと作者の輪なにから娶られる一作となる。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://kumaneko.asablo.jp/blog/2008/06/30/3604246/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。