スカイ・クロラ2008-08-12

森博嗣   中公文庫   590円

映画が公開され話題となっている作品。

『すべてがFになる』になるが代表作としてあげられている。
僕にとっては、いつか読もうと思うも、未読のままでいた著者の一人。
今回「スカイ・クロラ」で始めて読むこととなった。
このシリーズ物の読み出す順番を間違えたため、
激しい消化不良を起こしてしまっている。
シリーズの最後に位置する物語だとは思わなかったのだ。
現在「ナ・バ・テア」を読み進めているので、
「スカイ・クロラ」の不可解さが幾分かわかってきているところである。
したがって、以下の感想ははなはだ的外れとなると言い訳しておく。

基本的に本作品は一人称で語られる作品である。
語り手は「カンナミ・ユーヒチ」。
戦闘機の操縦士を職業とする若者。
戦闘機乗りとしてはすばらしい技能を持ち、
戦闘機のコクピットの中で独りで搭乗し、飛んでいる時間だけが、
落とし、落とされるという緊張の中だけが生きている時間と感じている。

彼はキルドレといわれる、半ば心の障害とも言える、
大人として物を考えられない特異な存在である。
世界の中でショーとしての戦闘に従事している。

彼が戦闘機乗りとして赴任したのは、
「クサナギスイト」という女性指揮官のいる基地。
キルドレの彼は、他のものとの干渉を避け、
ただ戦闘機と一体でいる時間をいとおしみつつ勤務にいそしむ。

そんな彼はスイトという指揮官が、自分と同じキルドレと知る。
そして…
スイトの願いに答えるためにある行動を起こす。

成長しない戦う子どもの悲哀。
死すら、殺されることすら、救済であることの理不尽さ。
戦う意味すらはっきりとしないものたちが、
大空を自由に飛びながら死を支配し、同時に死に支配される。

暗く閉ざされていながら、妙に突き抜けた諦感。
この不気味さは、今の時代を反映している。



著者は僕と同い年らしい。
頭の中に住まわせているものはまったく別なものだが、
なぜか共感してしまえる。
この物語にある背景が、決して好きになれないものだとしても。

頭の中のものとの違いを埋めるため、
シリーズを読み進めることにした。

コメント

_ けにる。 ― 2008-08-23 14:05

もうそろそろ、全部読み終えていらっしゃるかもしれませんが・・・。
確かにスカイ・クロラは時系列では最後なのですが、刊行順なので問題ありませんよ。
というか、時系列より刊行順の方がオススメです。
故意に読者の誤解を誘ってみたり(特にナ・バ・テア序盤。スカイ・クロラ→ナ・バ・テアだと意図的な引っ掛けがある)、一応の完結であるスカイ・クロラから真実や謎を追いかける形になり、小説ならではの楽しみ方が出来ますよ~。

_ くまねこ ― 2008-08-24 23:37

けにるさん。情報有難うございます。

発表順だと確かに「スカイ・クロラ」が最初ですね。
指摘を受けて気づきました。

現在「ダウン・ツ・へヴン」を読み終えたところです。
なかなか仕掛けが凝っているから、
おっしゃるような読み方も楽しいのかなと思い始めています。
でも、しっくり来なくて読むのやめてしまう人がいるのなら、
もったいないような気もします。

文庫版はノベル版とおんなじなのかなあ。

現在のところでの感想は面白くなってきたというところです。

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